小学校プログラミング教育の手引(第一版)の概要

2020年から小学校でのプログラミング教育がスタートします。

どうして小学校からプログラミング教育が導入される必要があるのか、その狙いはなんなのかについて、教育者や親の立場からしっかりと把握しておくことが重要です。

親としてプログラミング教育の目的を把握しておいたほうが良い理由

義務教育の中で最低限学べる範囲を把握することで、今後10年後20年後に求められる情報処理能力のどこまでをカバーできるのかがわかります。

子供の将来を考えた時に、義務教育だけでは心細いと感じるのか、ここまで義務教育でカバーしてくれると感じるのかは、プログラミング教育の環境や親御さんが持っている事前知識によっても変わってくるでしょう。

教育者としてプログラミング教育の目的を把握しておいたほうが良い理由

小学校の教育現場で活躍する教員の方々が、プログラミング教育の目的を把握することは仕事の一環だと捉えられがちですが、実際の教育現場は多忙化が問題になっているため難しいのが現状です。

そんな中、プログラミング教育の義務化が近づき、内心ハラハラしている教員の方も多いのではないでしょうか。そんな不安を抱える教育現場の先生方が安心してプログラミング教育に取り組める様に公開されているのが、まさに「小学校プログラミング教育の手引(第一版)」が公開されている目的でもあります。

まずは、プログラミング教育の狙いや目的について把握するだけでも、今持っている不安や疑問が解消されるはずです。ぜひこの機会にチェックしてみてください。

小学校プログラミング教育導入の経緯

まず押さえておきたい点は、すでに私たちの生活の中にコンピュータはなくてはならない存在になっているということです。コンピュータ無しの生活は難しくなってきています。

この様に、コンピュータによってより便利な機能をより安いコストで実現できる様になった現在ですが、その流れは、今後ますます増幅していくでしょう。

そうなった時、今よりもより身近にコンピュータが我々の生活に入り込み、そして人間がコンピュータに様々なことを指示することが当たり前になってきます。

そうなった時に、上手にコンピュータへの指示だし(プログラミング)ができるかできないかによって、子供たちの将来の可能性に大きく影響してくると考えられているため、義務教育にプログラミング教育が導入されることになりましg田。

プログラミング教育の狙い、育成したい力

小学校のプログラミング教育の狙いは、「情報活用能力を構成する3つの資質・能力」を育成することにあります。

この3つの資質・能力とは以下を指しています。

(1)プログラミング的思考の育成

プログラミング的思考とは、一言で表すと「コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力」を指します。

一例として、コンピュータを動作させるための手順を例に説明した図を紹介しましょう。

参照元:小学校プログラミング教育の手引(第一版)

つまり、

  1. コンピュータにさせたいことを明確化する
  2. やらせたいことをコンピュータに実行させるために必要な順序を考える
  3. 順序に沿ってプログラミング(命令文)を作成する
  4. プログラム内容を実行して想定していた動きをコンピュータが実行できているか確認する
  5. 改善余地がないか考え試行錯誤しながらより良い命令文に書き換える

といったプロセスを経て育まれる論理的思考を指しています。

(2)コンピュータの知識と技能の育成

コンピュータの知識とは、情報に関する法や制度、またマナーといったことだけでなく、コンピュータが社会で果たしている役割などについても知ることで問題の発見や解決に活用されていることを知ることを指します。

コンピュータの技能面では、コンピュータを使って問題解決するためには必要な手順があり、その手順を自分で導き出すことができることが主軸に置かれています。

勘違いされやすいのは、プログラミング教育の狙いとして、プログラミング言語を覚えたり、プログラミングの技能を習得することが求められていない点です。

(3)コンピュータの機能をより良い人生や社会づくりに生かそうとする姿勢の育成

最後に、プログラミング教育の狙いとして、コンピュータを利用してより良い人生や社会づくりに生かそうとする姿勢の育成につなげることが挙げられています。

この点では、情報や情報技術が便利であることを理解した上で、今抱えている様々な課題に対してコンピュータを活用して解決しようという態度育成が求められています。

また、著作権といった情報モラルや個人情報などのセキュリティに関する知識も習得することが望まれています。

プログラミング授業の事例(期待されている授業内容)

どうやって「プログラミング的思考」を育み「気付き」を促し「態度」を育めるのか?

では、どのような方法で「コンピュータはプログラムで動いていること」「プログラムは人が作成していること」「コンピュータには得意なこととなかなかできないこととがあること」を、体験を通して気付かせることができるのでしょうか。

これは、実際にプログラミング教育をプレスタートしている学校の事例をチェックするのがわかりやすいので、情報教育推進校(IE-School)の初年度の取組みをご紹介します。

一宮市立末広小学校の事例(小学校5年生・家庭科)

愛知県にある一宮市立末広小学校では、もともと平成21年度から教室でもICT機器の利用ができるように環境整備に取り組んでいましたが、実際にはその利用率は高いとは言えない状況でした。

そこで、子供たちの情報活用能力を育成するための検証研究を行うことを決め、年間計画を立てプログラミング教育へ取り組みました。その内容は以下の通りです。

「情報教育推進校(IE-School)」調査研究の成果報告書1より
「情報教育推進校(IE-School)」調査研究の成果報告書1より

このプログラミング教育の事前準備として、一宮市立末広小学校では教師に対して2つの研修を実施しています。

一つはプログラミング教育自体の研修、もう一つはタブレットPCの研修です。このように、現場で教える立場にある教育者の研修についても、研修時間や内容、誰に研修してもらうのか、など様々な前ステップが必要であることがわかります。

立命館小学校(小学校6年生・情報の時間)

立命館小学校は、2006年度からロボティクス科を設けたり、ART CALL 英語塾などの課外活動等を通してICT授業を積極的に展開しています。2012年度にはタブレットPCの導入をスタートし、2015年度からは新たにプレゼンテーション教育に力を入れるために、企業から派遣されたICT支援員と一緒になって教材研究を行なっていました。

「情報教育推進校(IE-School)」調査研究の成果報告書1より
「情報教育推進校(IE-School)」調査研究の成果報告書1より

このように、様々な学校のプログラミング教育内容をチェックしてみると、その内容の多様性に驚かれるのではないでしょうか。これは、まだ始まったばかりで試行錯誤の段階であることため、当然の展開と言えます。

小学校では、中学・高校で学ぶ「プログラムを作成する上でのアルゴリズム(問題を解決する手順を表したもの)の考え方やその表現の仕方、コンピュータやネットワークの仕組み、コンピュータを用いた問題の発見・解決のための知識及び技能等」を理解するための素地を持つ授業が求められています。

その内容や取り組み方は、ICT機器の準備や教育者の研修といった環境作りから始まり、どういった授業内容でどんなスキル・知識・能力をどのように伸ばすかは現場に依存していると言えます。

このことから想像できるのは、2020年にスタートするプログラミング教育の義務教育化によって、まさに環境や教師自身に依存したプログラミング教育が展開されると言うことではないでしょうか。