学習指導要領の改訂によるプログラミング教育の充実

平成29年3月に小学校及び中学校、平成30年3月に高等学校の新学習指導要領が告示されました。その内容は、新学習指導要領を小学校は平成32年度、中学校は33年度から全面実施。高等学校は34年度から学年進行で実施していくというものです。

この新学習指導要領によって、プログラミング教育と統計教育の充実を目標にしています。

プログラミング教育の充実

プログラミング教育を充実していく理由は、第四次産業革命によって発達したAI/IoT技術の時代に生き抜く力として、言語能力に加えて情報活用能力が学習の基盤となる資質・能力とし位置付けたことが挙げられます。

今後、小学校は平成32年度、中学校は平成33年度、高等学校は平成34年度から学年進行で実施していくことが決まりました。

平成32年度から始まる小学校でのプログラミング教育では、算数や理科、総合的な学習の時間を使って、プログラミングを体験しながらコンピュータに意図した処理を行われるために必要な論理的思考力を身につけさせるための学習活動を実施するとしています。

平成33年度から始まる中学校のプログラミング教育では、技術・家庭科(技術分野)でプログラミング教育を充実してきます。具体的には、「計測・制御のプログラミング」に加えて、「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」について学ぶことがわかっています。

平成34年度から始まる高等学校におけるプログラミング教育は、情報化において共通必履修科目「情報I」を新設し、全ての生徒がプログラミングのほか、ネットワーク(情報セキュリティを含む)やデータベースの基礎等について学習することが決まっています。

統計教育の充実

新学習指導要領のもう一つの目玉は、統計教育の充実にあります。

小学校の算数において「データの活用」の領域を新設するなど、小中高等学校を通じて統計教育を充実させることが明記されています。

具体的に「データの活用」領域で追加された主な内容は、以下の通りです。

  • 小学校3年:複数の棒グラフを組み合わせたグラフなどを追加
  • 小学校4年:複数系列のグラフなどを追加
  • 小学校5年:複数の帯グラフを比べることを追加
  • 小学校6年:中央値や最頻値などを追加
  • 中学校1年:累積度数を追加
  • 中学校2年:四分位範囲、箱ひげ図を追加

また、統計に関する追加された主な内容は以下の通りです。

  • 数学I:仮説検定の考え方(新設)
  • 数学A:期待値(新設)
  • 数学B:区間推定、仮説検定(新設)

数値的思考やデータ分析・活用能力が必要な時代へ

このように、国を挙げて数理的思考やデータ分析・活用能力を持ち、社会における様々な問題の解決・新しい課題の発見ができる人材、そしてデータから価値を生み出すことができる人材の育成が今後ますます注力されていくことがわかります。

大切なのは、身の回りにある様々なデータに触れる機会とそこから得られる知見、そしてそれらの知見をどのように社会に生かしていくかという姿勢そのものかもしれません。

プログラミングも統計学も一見敷居が高いように感じますが、ステップを踏みながら触れる機会を増やすことで必ず身に付けることができます。10年後、20年後を見越したときに、これからの時代を生き抜くために子供達に身につけてほしい能力の一つだと感じています。

プログラミングの必要性

世の中には「プログラミングができなくてもプログラミング的思考力がつけばいい」と思っている方も少なくありません。

しかし、プログラミングを学んだ経験者として言わせてもらうと、それは「今に限った話」であってお子さんが社会人になる頃には必須スキルの一つになっているでしょう。

「仕事ができる」の定義にプログラミングスキルが入ってくる

よく、「あの人は人の二倍働くね」なんて言いますが、プログラミングができると人の百倍はアウトプットできるようになります。プログラミングを導入する前と後で一人あたりの生産性が指数関数的に上がるためです。一人で一人分のアウトプットしかできない人と一人で百人分のアウトプットができる人がいたら、資本主義の観点からシンプルに経営者は前者を採用するでしょう。

日本のプログラミング教育の遅れ

2020年からプログラミング教育が小学校でも義務教育化されますが、この流れは世界を見ると遅れをとっていると言わざるを得ません。諸外国のプログラミング教育

世界でも、プログラミング教育の流れが出てきているのには理由があります。それは、今までの教育プログラムでは、次世代を担う力が培われない、むしろ今までの教育プログラムのままではAI(人工知能)に代替されてしまう可能性が高まっているためです。

AIの活用が期待される分野

AIの発展により、今ある仕事の半分はAIに成りかわると言われています。現在も、進行形でバスやタクシーなどの自動運転技術は進歩しており、2018年6月に公表された未来投資会議では、2020年をめどに行動で無人で走る自動運転バスなどの走行をスタートするとしており、2030年までには全国100箇所以上で展開することを決定しています。これに伴い、ニーズの高まるAI人材増加策としてプログラミングを学ぶ情報Iを大学入学共通テストに盛り込む方針を出しています。

定型の仕事はどれだけ淘汰されるのか?

平成30年の5月に野田総務大臣が出した資料「未来をつかむTECH戦略」によれば、AIやIoT時代の到来によって2015年から2030年までに定型業務に携わる人数は386万人減少すると想定されています。

このようなAI/IoT時代の到来に先駆け、政府は以下のような施策を提言しています。

  • トップレベルのスキルを備えた人材の育成・確保
  • 社会人がAI/IoT時代に活躍できるようなスキルアップ
  • 社会全体のAI/IoTリテラシーをあげる施策

それぞれの施策について、具体的に見ていきましょう。

トップレベルのスキルを備えた人材の育成・確保

この施策では、まず「若年層の起業家・トップイノベーターの育成支援」が掲げられています。将来にわたり、AIやIoTなどのTECHを用いて起業する人・最先端の研究開発からの起業などは国を挙げて支援されるため、社会に必要とされる人材だということになります。

起業するためには、秀でた技術力・問題発見能力・解決能力・人脈・強靭な精神力が必要になります。これらの要素は短期的に身につくものではなく、幼い頃からIoT技術を用いて問題解決する経験を積むことが必要だと感じています。

次に掲げられているのが「IoT時代のネットワーク・セキュリティなどの高度人材の確保」です。具体的には、ネットワークの運用・管理ができる人材育成などが行われる予定です。

IoTといっても、開発・分析など様々な分野がある中で、セキュリティ分野の人材は明確に必要と明示されていることが、ここから読み取れます。この背景には、セキュリティ分野がわかりづらい、とっつきにくい分野であるため担う人材が少ないという問題があると思います。逆に言えば、この分野でスペシャリティになれば、「食いっぱぐれることはない」ということを意味していると思います。

社会人がAI/IoT時代に活躍できるようなスキルアップ

次に時代に則した人材のスキルアップを支援する施策を紹介します。この施策は、地方やユーザ企業で不足している社会人の教育を目的に行われるものです。具体的な施策数は3本あり、詳細は以下の通りとなります。

一つ目は「データサイエンティストの育成」です。講座や学習サイトの提供を行うことで、データサイエンス力の高い人材を育成する施策となります。

二つ目は「地方公共団体職員等のICTスキルの向上」です。自治体CIOや地域におけるオープンデータ人材の育成のために研修を実施する施策となります。

最後が「IoTのユーザ起業等におけるスキル向上」です。これは、ユーザー企業等の経営者などに対する講習会を実施する施策となります。この施策から、今後顧客データ等を扱う企業経営には情報スキルが必要になることを意味しています。逆にいうと、情報スキルがない経営者は時代に取り残されるといっても過言ではないでしょう。

社会全体のAI/IoTリテラシーをあげる施策

最後の「社会全体のAI/IoTリテラシーをあげる施策」として挙げられている施策を紹介します。この施策の目的は、社会全体がAIやIoTの恩恵を受けるためには、全ての人に情報リテラシーが必要になるという考えのもと設けられています。具体的な施策は2つあります。

一つは地域ICTクラブの構築です。これは地域で子供や学生だけでなく、社会人や高齢者がプログラミングなどのICTを楽しく学び合い新しい時代の絆を作るための仕組みづくりを施策として行います。

二つ目は、ICT利活用推進委員の創設です。高齢者がICT機器の操作等について気軽に相談できる地域の身近な存在として、ICT活用推進委員の制度を創設しようというものです。ICT機器に不慣れな高齢者でも、生活の質を向上させる機器の利用に必要な情報リテラシーを地域の力で担うという構想になります。

このように、国を挙げて行う施策をチェックしても、今後、いかに情報スキルが必要になるのか分かっていただけたのではないでしょうか。

翻ると、情報リテラシー・スキルはこれからの時代を生きていく中で必須になるということになります。これから出てくる便利なICT機器を利用するにも情報リテラシーが必要になる時代です。子供達に今からAI/IoTに触れさせることが、生き抜く力を培うことになります。

教育の ICT 化に向けた環境整備5か年計画(2018 ~ 2022 年度)

2020年に小学校でプログラミング教育が義務化されるにあたり、2018年から様々な環境整備が始まっています。そのための予算は5年間で1,805億円と言われています。これらの予算の中で、どのような環境整備が進められるのでしょうか。

文部科学省が、2018年4月に公表した「教育の ICT 化に向けた環境整備5か年計画(2018 ~ 2022 年度)」では、学校教育における以下の点において環境整備を進めていくとしています。

コンピュータの整備

子供達が使用するコンピュータが3クラスに1クラス分ほど整備されます。この数は、子供一人が1日1回は授業などでコンピュータに触れる機会が設けられる台数となっています。

また、プログラミング教育を指導する先生用のコンピュータは一人に1台ずつ整備されます。

大型提示装置・実物投影機

コンピュータの画面を大画面に映し出す大型提示装置や実物投影機を各普通教室に1台、特別教室用に6台配置するとしています。

インターネット環境

インターネットを使用する授業に備えて、超高速インターネット・無線LANシステムが100%整備されることになっています。

統合型校務支援システム

統合型校務支援システムとは、教員の業務負担を軽減と授業内容の質向上を目的に作られたシステムで、平成29年3月1日時点で、全国の学校全体の48.7%で導入されています。

実際に、この統合型校務支援システムを導入したことにより、教師一人当たりの勤務時間数を年間200時間も削減できた事例もあり、プログラミング教育がスタートしても、教師にとって新たな負担が大きならない対策として効果が期待されています。

しかしながら、統合型校務支援システムの調達コストや運用コストが原因で約半数の学校では今でも統合型校務支援システムが導入されていません。この状況を改善すべく、教育の ICT 化に向けた環境整備5か年計画では、統合型校務支援システムを100%整備することを盛り込んでいます。

ICT支援員

もう一つ、教師の負担軽減策として導入が決定しているのがICT支援員です。ICT支援員とは、プログラミング教育が開始されることで現場に導入されるIT機器の管理や準備業務などを専門に行う人を指します。

「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018~2022年度)」では、ICT支援員を4校に一人を配置することが明示されています。

平成30年3月に文部科学表が公表した「ICT支援員の配置を」によれば、「次代を担う児童生徒を育成するこれからの学びを実現するためにICT支援員は不可欠な存在」としています。

教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018~2022年度)より抜粋

その他

ここで紹介した内容以外にも、以下のような整備がプログラミング教育現場には必要だと言われています。

  • 学習者用ツール
  • 学習用サーバ
  • 校務用コンピュータやセキュリティに関するソフトウェア
  • 予備用学習者用コンピュータ
  • 校務用サーバ
  • 充電保管庫

小学校プログラミング教育の手引(第二版)の概要

平成30年3月に、文部科学省から小学校プログラミング教育の手引(第一版)(平成30年3月)が公開され、2020年から義務教育に導入されるプログラミング教育の目的や狙い、先行事例の紹介がされてきました。

これは、教育者の持つプログラミング教育への不安を払拭し、プログラミング教育の指導イメージを持ってもらうことを目的に取りまとめられています。

そしてその約8ヶ月後の平成30年11月に、小学校プログラミング教育の手引(第一版)の改訂版として「小学校プログラミング教育の手引(第二版)」が公開されました。

小学校プログラミング教育の手引(第二版)が公開された理由

第一版に加えて第二版が公開されたのは、2020年を待たずにプログラミング教育を先行的に実施する学校が増えてきており、より具体的な説明や新しい事例紹介をすることで、よリスムーズにプログラミング教育の導入が可能になると文部科学省が判断したことが理由に挙げられます。

では、どのような内容が追加されたのでしょうか。

小学校プログラミング教育の手引(第二版)のポイント

改訂のポイント1:取組事例の追加

プログラミングにおける学習活動には4つの分類がされています。

  • A.学習指導要領に例示されている単元等で実施するもの
  • B.学習指導要領に例示されてはいないが、学習指導要領に示される各教科等の内容を指導する中で実施するもの
  • C.教育過程内で各教科等とは別に実施するもの
  • D.クラブ活動など、特定の児童を対象として、教育家庭内で実施するもの

今回の改訂内容のポイントの一つ目は、A~C分類のプログラミング教育の取組例を追加したことにあります。

特にC分類(教育過程内で各教科等とは別に実施)は、学校の創意工夫によって様々な取組が考えられるため、学校の環境や教育者によって千差万別になりやすく、逆に言うと、何をしていいかわかりづらいカテゴリでもあります。そこで、より多くの事例を追加して示すことで、C分類におけるプログラミング教育のイメージを教育者に持ってもらおうという狙いが伺えます。

A分類(学習指導要領に例示されている単元等で実施)で追加された指導例

  • 総合的な学習の時間:「まちの魅力と情報技術」を探求課題として学習する
  • 総合的な学習の時間:「情報技術を生かした生産や人の手によるものづくり」を探求課題として学習する

B分類(学習指導要領に示される各教科等の内容を指導する中で実施)で追加された指導例

  • 社会(第4学年):都道府県の特賞を組み合わせて47都道府県を見つけるプログラムの活用を通して、その名称と位置を学習する
  • 過程(第6学年):児童水棺機に組み込まれているプログラムを考える活動を通して、炊飯について学習する

C分類(学習指導要領に示される各教科等の内容を指導する中で実施)で追加された指導例

  • プログラミングの楽しさや面白さ、達成感などを味わえる題材などでプログラミングを体験する例

改訂のポイント2:外部からの協力を得た事例の追加

プログラミング教育が義務教育化するにあたり、コンピュータ環境や設備を整えるのに大きなコストがかかるケースも考えれらます。

また、今までプログラミングに触ったことのない教育者もいるため、プログラミング教育のための事前準備に時間が割けるのか、実際に教えることができるのか、という不安や疑問がありました。

このように、物的・人的資源を学校だけで準備するのは難しいケースもあるため、外部から協力を得た事例を掲載しています。

例えば、プログラミング研修をする講師を呼ぶケースや、企業からパソコンなどのデバイスを貸与するケースなどです。このような外部からの教区を得てプログラミング教育を実施した事例を紹介することで、学校事情に合わせて柔軟に環境整備できる方法をチェックすることができます。

企業・地域ボランティア・団体からのサポートを得た事例

教育委員会と企業との間で包括協定を結び、「研修」「プログラミング教育の実施」においてサポートを得た事例がありました。

これによって、教育者は企業のサポートを得て、プログラミングに慣れる機会を得ることができたり、プログラミング教育の年間計画、指導方針などをまとめることができています。

ICT支援員の研修なども、企業や大学・NPO法人にサポートしてもらうことで、教育者の負担を軽減しながら質の高いプログラミング教育を提供できた事例も掲載されています。

まとめ

このように、プログラミング教育という新しい取組が全国で一斉にスタートするにあたり、学校や教育者の不安を一つずつ払拭するために必要な情報が、小学校プログラミング教育の手引(第二版)に追記されていることがわかりました。

小学校プログラミング教育の手引(第一版)の概要

2020年から小学校でのプログラミング教育がスタートします。

どうして小学校からプログラミング教育が導入される必要があるのか、その狙いはなんなのかについて、教育者や親の立場からしっかりと把握しておくことが重要です。

親としてプログラミング教育の目的を把握しておいたほうが良い理由

義務教育の中で最低限学べる範囲を把握することで、今後10年後20年後に求められる情報処理能力のどこまでをカバーできるのかがわかります。

子供の将来を考えた時に、義務教育だけでは心細いと感じるのか、ここまで義務教育でカバーしてくれると感じるのかは、プログラミング教育の環境や親御さんが持っている事前知識によっても変わってくるでしょう。

教育者としてプログラミング教育の目的を把握しておいたほうが良い理由

小学校の教育現場で活躍する教員の方々が、プログラミング教育の目的を把握することは仕事の一環だと捉えられがちですが、実際の教育現場は多忙化が問題になっているため難しいのが現状です。

そんな中、プログラミング教育の義務化が近づき、内心ハラハラしている教員の方も多いのではないでしょうか。そんな不安を抱える教育現場の先生方が安心してプログラミング教育に取り組める様に公開されているのが、まさに「小学校プログラミング教育の手引(第一版)」が公開されている目的でもあります。

まずは、プログラミング教育の狙いや目的について把握するだけでも、今持っている不安や疑問が解消されるはずです。ぜひこの機会にチェックしてみてください。

小学校プログラミング教育導入の経緯

まず押さえておきたい点は、すでに私たちの生活の中にコンピュータはなくてはならない存在になっているということです。コンピュータ無しの生活は難しくなってきています。

この様に、コンピュータによってより便利な機能をより安いコストで実現できる様になった現在ですが、その流れは、今後ますます増幅していくでしょう。

そうなった時、今よりもより身近にコンピュータが我々の生活に入り込み、そして人間がコンピュータに様々なことを指示することが当たり前になってきます。

そうなった時に、上手にコンピュータへの指示だし(プログラミング)ができるかできないかによって、子供たちの将来の可能性に大きく影響してくると考えられているため、義務教育にプログラミング教育が導入されることになりましg田。

プログラミング教育の狙い、育成したい力

小学校のプログラミング教育の狙いは、「情報活用能力を構成する3つの資質・能力」を育成することにあります。

この3つの資質・能力とは以下を指しています。

(1)プログラミング的思考の育成

プログラミング的思考とは、一言で表すと「コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力」を指します。

一例として、コンピュータを動作させるための手順を例に説明した図を紹介しましょう。

参照元:小学校プログラミング教育の手引(第一版)

つまり、

  1. コンピュータにさせたいことを明確化する
  2. やらせたいことをコンピュータに実行させるために必要な順序を考える
  3. 順序に沿ってプログラミング(命令文)を作成する
  4. プログラム内容を実行して想定していた動きをコンピュータが実行できているか確認する
  5. 改善余地がないか考え試行錯誤しながらより良い命令文に書き換える

といったプロセスを経て育まれる論理的思考を指しています。

(2)コンピュータの知識と技能の育成

コンピュータの知識とは、情報に関する法や制度、またマナーといったことだけでなく、コンピュータが社会で果たしている役割などについても知ることで問題の発見や解決に活用されていることを知ることを指します。

コンピュータの技能面では、コンピュータを使って問題解決するためには必要な手順があり、その手順を自分で導き出すことができることが主軸に置かれています。

勘違いされやすいのは、プログラミング教育の狙いとして、プログラミング言語を覚えたり、プログラミングの技能を習得することが求められていない点です。

(3)コンピュータの機能をより良い人生や社会づくりに生かそうとする姿勢の育成

最後に、プログラミング教育の狙いとして、コンピュータを利用してより良い人生や社会づくりに生かそうとする姿勢の育成につなげることが挙げられています。

この点では、情報や情報技術が便利であることを理解した上で、今抱えている様々な課題に対してコンピュータを活用して解決しようという態度育成が求められています。

また、著作権といった情報モラルや個人情報などのセキュリティに関する知識も習得することが望まれています。

プログラミング授業の事例(期待されている授業内容)

どうやって「プログラミング的思考」を育み「気付き」を促し「態度」を育めるのか?

では、どのような方法で「コンピュータはプログラムで動いていること」「プログラムは人が作成していること」「コンピュータには得意なこととなかなかできないこととがあること」を、体験を通して気付かせることができるのでしょうか。

これは、実際にプログラミング教育をプレスタートしている学校の事例をチェックするのがわかりやすいので、情報教育推進校(IE-School)の初年度の取組みをご紹介します。

一宮市立末広小学校の事例(小学校5年生・家庭科)

愛知県にある一宮市立末広小学校では、もともと平成21年度から教室でもICT機器の利用ができるように環境整備に取り組んでいましたが、実際にはその利用率は高いとは言えない状況でした。

そこで、子供たちの情報活用能力を育成するための検証研究を行うことを決め、年間計画を立てプログラミング教育へ取り組みました。その内容は以下の通りです。

「情報教育推進校(IE-School)」調査研究の成果報告書1より
「情報教育推進校(IE-School)」調査研究の成果報告書1より

このプログラミング教育の事前準備として、一宮市立末広小学校では教師に対して2つの研修を実施しています。

一つはプログラミング教育自体の研修、もう一つはタブレットPCの研修です。このように、現場で教える立場にある教育者の研修についても、研修時間や内容、誰に研修してもらうのか、など様々な前ステップが必要であることがわかります。

立命館小学校(小学校6年生・情報の時間)

立命館小学校は、2006年度からロボティクス科を設けたり、ART CALL 英語塾などの課外活動等を通してICT授業を積極的に展開しています。2012年度にはタブレットPCの導入をスタートし、2015年度からは新たにプレゼンテーション教育に力を入れるために、企業から派遣されたICT支援員と一緒になって教材研究を行なっていました。

「情報教育推進校(IE-School)」調査研究の成果報告書1より
「情報教育推進校(IE-School)」調査研究の成果報告書1より

このように、様々な学校のプログラミング教育内容をチェックしてみると、その内容の多様性に驚かれるのではないでしょうか。これは、まだ始まったばかりで試行錯誤の段階であることため、当然の展開と言えます。

小学校では、中学・高校で学ぶ「プログラムを作成する上でのアルゴリズム(問題を解決する手順を表したもの)の考え方やその表現の仕方、コンピュータやネットワークの仕組み、コンピュータを用いた問題の発見・解決のための知識及び技能等」を理解するための素地を持つ授業が求められています。

その内容や取り組み方は、ICT機器の準備や教育者の研修といった環境作りから始まり、どういった授業内容でどんなスキル・知識・能力をどのように伸ばすかは現場に依存していると言えます。

このことから想像できるのは、2020年にスタートするプログラミング教育の義務教育化によって、まさに環境や教師自身に依存したプログラミング教育が展開されると言うことではないでしょうか。

小学生のためのプログラミング基礎

小学生のプログラミング基礎について

2020年に小学生に対してプログラミング教育が義務化されます。このことを受けて、小学生にまず教えるべきプログラミングの基礎とはどんなもので、どのような方法で基礎を教えることが求められているのか気になっている方が増えています。

特に、実際に教育現場で小学生にプログラミングを教えなければいけない教員の方や、これからプログラミング知識は必須だとお気付きの親御さんにとって、小学生にとってプログラミング教育をどのように進めていくのか、提供していくのかというのは一大問題ではないでしょうか。

小学生のプログラミング基礎とは?

小学生にとってプログラミング教育の基礎は何が該当するのか見当もつかない方がほとんどだと思います。

新小学校学習指導要領では、小学生のプログラミング教育で育成したい資質・能力について以下の3つを示しています。

  1. 知識及び技能
    • 身近な生活でコンピュータが活用されていることを知る
    • 問題の解決には必要な手順があることに気づく
  2. 思考力、判断力、表現力等
    • 発達の段階に即してプログラミング的思考を育成する
  3. 学びに向かう力、人間性等
    • 発達の段階に即して、コンピュータの働きを、よりよい人生や社会づくりに生かそうとする態度を涵養する

小学生のプログラミング基礎の育成方法

また、3つの資質・能力(1.知識及び技能、2.思考力、判断力、表現力等 3.学びに向かう力、人間性等)の育成方法について以下のように規定しています。

「児童がプログラミングを体験しながら、コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動」を「各教科等の特質に応じて」「計画的に実施すること」と規定しています。

小学校プログラミング教育の手引(第一版)より

この新小学校学習指導要領を読み解くと、「各教科の中でプログラミング教育を実施する」ことが明示されており、プログラミングのための教科が新しくできる訳ではないことに気づかされます。

実際に、新小学校学習指導要領では、以下の様な図を用いて各教科(算数・理科・音楽・特別活動など)の中でプログラミング教育が実施されることをイメージしています。

例えば、指導例A-①では、算数の時間に正多角形の作図を小学校5年生の時にプログラムを使って行う、などの方法が示されています。

小学校プログラミング教育の手引(第一版)より抜粋

この様に、小学校プログラミング教育の手引を見ると、成績に直結しないプログラミング教育は、塾に通わせてまで特別に学ばせる必要はない様に感じる親御さんもいるかもしれません。

しかし、実際にはプログラミングを得意とするか否かで、その後の人生に大きく影響をおよぼすのではないかと言われる様になっています。(詳細はシンギュラリティについてチェックしてみてください)

小学生にプログラミングを学ばせるなら最初が肝心

小学生にプログラミングの基礎を学ばせる際に重要なポイントが、「プログラミングに苦手意識を持たせない」ということです。

最初にプログラミングに苦手意識を持つと、後々プログラミングに接しない人生を選択しがちです。これは、英語を苦手とする人にとっては体験済みではないでしょうか。

しかし、これからの時代は、プログラミングが得意な方が有利であることは間違いありません。

だからこそ、プログラミング基礎を学ぶ時に大事なのは、プログラミングを好きになってもらうこと、楽しむことができること、苦手意識を持たないこと、が大切になってきます。

では、小学生がプログラミング基礎を学ぶ時に苦手意識を持たないようにするためにはどのようなことが重要になってくるのでしょうか。

小学生がプログラム基礎でつまづかない5つのポイント

プログラミング教育の基礎段階でつまづかない様にするためには以下の5つのポイントを押さえておくと良いでしょう。

  1. 難しいと思わせない
  2. プログラミングを通して、どんなことができるのかがわかる
  3. 実際にプログラミングを描いて動かしてみる
  4. プログラミングで作った物を他の人に見てもらう(外からの評価を受ける)
  5. プログラミングの評価を受けて、改善する機会を設ける

小学校編|プログラミング教育の目的

なぜ小学校でプログラミング教育が始まるのか?

2020年から、小学校でプログラミングが必修化されます。この背景には、AIの発展によって予測不可能な未来を、子供達が生き抜くための教育を行う必要性が出てきていることが理由に挙げられます。

AIの発展による予測不可能な未来とは?

一言で言うと、「人工知能によって人間の仕事が奪われる可能性がある未来」です。

このような表現をすると、”得体の知れない人工知能によって急に仕事が奪われてしまうのではないか”と心配される方もいるかも知れません。しかし、現在の生活の中でも「ロボットによる人間の仕事の代替」は起こっています。

例えば、一昔前、田植え〜稲刈り〜脱穀など人の手作業で行われてきました。しかし現在はコンバインと言う機械によって人の手で行う何十倍の速さで稲刈りと脱穀が行われています。

問題はその代替されるスピードと精度にあります。

例えば、自動車の自動運転技術は、近い将来、バスやタクシーやトラックの運転手の仕事を奪いかねません。このように、人工知能の発達によってそう遠くない未来に、人間の仕事の多くがロボットに奪わる時代が訪れようとしています。つまり、今当たり前にある仕事が近い将来なくなってしまうような大転換時代を迎えているのです。

詰め込み教育の終焉

では、これからの将来を見据えた時、今までのように知識詰め込み型の教育を受けた子供達が、人工知能よりも優って仕事をすることができるのでしょうか。

答えは「NO」です。

知識だけを詰め込むことは、機械やAIがもっとも得意とするところです。人間の記憶量や正確さは、AIに及びません。つまり、今までのように知識を詰め込むだけの教育を受けても、生き抜くことが難しくなってくるのです。

人工知能を使いこなす側になるために

子供達が大人になった時、人工知能に仕事を奪われる側ではなく、人工知能をうまく利用しながら仕事をする側になるためにどんな教育が必要なのか。このような議論が繰り返され、様々な教育について検討した結果、「小学校からのプログラミング教育が必要だ」と国が判断したのではないでしょうか。

人工知能による大転換時代について詳細を知りたい方には以下の本をお勧めします。
「仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること (講談社+α新書)」